2017年11月8日水曜日
ある作家の生き方と集大成
専門的な要素を含んだ話を書いていくためには知識が必要不可欠でして、それを突き詰めるか詰めないかで作品の厚みは大きく変わってきます。
私が専門的な作品の制作にあたる前には、その専門的な分野の本を徹底的に読み漁り、知識を付けていきます。
しかしこの程度のことならおそらく誰でもやっていることであって、特に驚きもない事でしょう。
しかし中には凄い人もいまして、これは海外の作家さんの話でうろ覚えなのですが、
新しい作品でオーケストラのバイオリニストに焦点を当てた話を書こうと思い、最初は私のように専門者などを読み知識を深めていったそうなのですが、専門書だけでは納得できず、
自身でもバイオリンを購入し練習を始めオーケストラに入ろうとしたのです。
でもこの方には深い音楽的知識も経験もなく、そんな人が入れるほどオーケストラの世界は甘くなく、すぐに挫折してしまったそうです。
しかし作品のためにはどうしてもオーケストラの空気を感じ取りたいと思った彼は、作家でありながらオーケストラの雑用係になって働き始めたというのです。
このとき確かすでに60歳を超えていたらしいので何らかのコネは持っていたのでしょうが、それでも考えられない行動力ですよね。
自分の作品に使う現場で仕事始めてしまうんですから。それだけの熱意をもって作品に臨めることは、本当に凄い事だと思います。
ステージマネージャーの中でも一番下っ端として働き始めた彼には辛いこともあったでしょうが、その仕事を3年間やり通し、バイオリニストからも多くの話を聞くことが出来て、またオーケストラの甘みも苦みも味わった彼は、そこからようやく執筆を始めたというのです。
60歳にして一つの作品のためにここまでする意欲というか執念は凄いですよね。
とてもじゃないですけど私には出来ないです。これほどまで自分の作品のために動く自信がありません。
自分が納得できるだけの情報を収集して、彼はオーケストラのステージマネージャーを辞め、ようやく作品づくりに取り掛かりました。
その期間はまた長く、一つの作品を完璧に仕上げるために2年間もかけたそうです。
おそらく手直しに手直しを重ね、自分と等しいまでの魂のこもった作品を作り上げたそうです。この時すでに65歳を超えていたそうですから、人生の集大成としての思いでその作品を書き上げたのでしょう。
ちなみにこの人の作品がどんなものか気になっている人もいるでしょうから、紹介したかったのですが、
実はこの人の作品、出版社にあっさりとボツにされたそうです。
「オーケストラの話は売れないから駄目」の一言で追い返されたとか。
こんなことってあります?考えられませんよね。
そして小説家の世界にはある慣例があり、一度ボツにされた作品は再度手直しをしようがボツの刻印は取れなく、出版できなくなってしまうのです。
そのため彼のこの作品は陽の目を見なかったそうです。
ここまで努力して作品を作り上げて、それをまともに読みもしないでボツなんて人間の血が流れてるとは思えませんよ。
それなのにそこらのタレントが書いた本は、ほいそれと出版されるんですから呆れてしまいます。
売れる売れないに関係なく、こういう人の作品を世に出してやることも出版社の役目だと思うのですが、それをせずにビジネスビジネスですもの。そりゃあ出版業界も廃れていきますって。
なんちゅう酷い世界だっていう話でした。
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